アメリカ(米国)の債務上限問題とその影響 個人投資家はどう対応すべきか
最近、話題となっているアメリカ(米国)の債務上限問題について、内容と市場に与える影響について簡単に整理しておきます。
アメリカ(米国)の債務上限問題とは?
債務上限問題とは、簡単にいうと、以下の様なことです。
アメリカ政府が、議会の制約により、これ以上借金ができなくなり、国債の利払いが一時的に停止されるなどの政府支出が滞り、経済や市場に様々な影響が出てしまう問題です。
- 2021年12月に、議会が31兆3814億ドルの債務上限を設定
- 現在、アメリカ政府の債務残高は債務上限にほぼ到達している(これ以上借金ができない状態になっている)
- イエレン米財務長官は、早ければ2023年6月5日にも、資金繰りがショートする可能性を指摘
- 債務上限のルールの変更には、議会(上院及び下院)の同意が必要だが、交渉が上手く行っていない
- 現在、米議会はねじれ状態(下院:共和党、上院:民主党)のため交渉が上手くいかない
債務上限はこれまでに何回も修正されてきました(20世紀前半から数えると100回以上修正されている。)。
議会の同意が必要になるため、その時々の政治状況で、同意が上手くいかず、問題化することがあります。
上記のとおり、現在、米議会はねじれ状態にあるため、問題が表面化してしまっているのです。
共和党は歳出削減を求め、民主党は財政出動を主張しています。
本日(2023/05/12)時点でも合意が取れていない状況です。(Bloomberg記事)
早ければ6月上旬にも資金繰りがショートする可能性があるとのことなので、かなりギリギリの状態です。
アメリカの債務上限問題の最新情報
結論が次第に出てきたので、結論部分については、下記のボックスにてまとめていきます。
- 2023/05/27(米国時間)夜に、バイデン大統領とマッカーシー下院議長が電話協議を行い、暫定合意が成立しました。
【暫定合意の内容】
・2025年までの2年間限定で、現行の債務上限である約31.4兆ドルを上回る財務残高を認める。
・社会保障を除く「裁量的支出」について今後2年間の歳出を抑制する - 2023/05/28(米国時間)に再び協議を行った後、31日に採決を両議院で行う予定。
- 2023/06/01、下院にて債務上限法案が可決されました。
- 2023/06/02、下院においても法案が可決されました。
以下はこれまでの経緯を時系列で列挙しています。
2023/05/18
新しい記事が出てました。少し明るい展望が見えてきたかもしれません。
Bloomberg記事:バイデン大統領、債務交渉の妥結「確信」-デフォルト回避に自信
2023/05/19
今まで1番前向きな記事ですかね。大丈夫そうな感じが出てきました。
Bloomberg記事:米債務上限問題、下院議長と民主上院首脳は6月1日前の採決視野
2023/05/20
雲行きがまた怪しくなってきました。。。
Bloomberg記事:米債務交渉、週末も継続へ-共和党退席でいったん中断後に再開
2023/05/22
協議は続けているみたいですが、進展はなさそうですね。
Bloomberg記事:バイデン米大統領と下院議長、22日に再会談-債務上限問題協議へ
2023/05/23
バイデン大統領とマッカーシー下院議長が会談するも妥協には至らず、協議は継続とのこと。
Bloomberg記事:バイデン大統領と下院議長、債務上限で「建設的」協議-妥結はまだ
2023/05/24
進展はあまりなさそうです。6月1日まであと1週間しかありません。
Bloomberg記事:米債務上限交渉、妥結への道筋なお不透明-担当者協議は再開
2023/05/25
格付会社の1つである「フィッチ・レーティングス」が米国債の格付け「AAA」を「レーティング・ウオッチ・ネガティブ」に置いたと発表したみたいです。格付け自体は依然として「AAA」のままです。
債務上限の交渉のほうは、まだまとまっていません
Bloomberg記事:米債務上限問題、交渉妥結の「時間ある」-マッカーシー下院議長
Bloomberg記事:米国の「AAA」格付け、フィッチが格下げの可能性
2023/05/27
元々、資金繰りがショートする「Xデー」を6月1日としていましたが、6月5日に伸びたみたいです。
交渉にも進展があったようです。依然として合意には至っていませんが。
Bloomberg記事:マッカーシー議長、債務上限交渉で進展あったと発言-26日に交渉再開
日経新聞記事(有料):米財務長官、債務上限Xデー「6月5日に」 1日から変更
2023/05/28 暫定合意成立
ついに暫定合意が成立しました!長い戦いでしたね!やはり予想通りプロレスを行った後、最終的には合意が成立しました。
Bloomberg記事:ホワイトハウスと共和党、債務上限引き上げで合意-債務不履行回避へ
2023/06/01 債務上限法案が下院で可決
暫定合意の内容を下院で審議していましたが、ついに可決されました!上院での法案可決はほぼ確実視されていて、債務上限問題にはおおかたケリが付いた模様です。
Bloomberg記事:米債務上限法案を下院が可決、上院送付へ-デフォルト回避目指す
2023/06/02 債務上限法案が上院においても可決
上院においても可決されました。バイデン大統領の署名をもってして債務上限法案は成立する予定です。
Bloomberg記事:米債務上限法案を上院も可決、大統領の署名で成立へ-デフォルト回避
米国債CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は急上昇中
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が実際に急上昇中です。上記の画像は米国債1年物のCDSです。
CDSとは簡単に言うと保険商品です(金融派生商品(デリバティブ)の一種)。
CDSはその商品の危険度を市場がどのように判断しているのかの参考指標になります。
金融資産にはリスクがあるので、それを回避(ヘッジ)するために、その商品の保険が存在します。
その保険のことをCDSと言います。保険の対象となっている商品(この場合、米国債)がやばくなると、その保険代金であるCDS価格が上昇するという仕組みです。
Investing.comから引用した「米国債1年物CDS」データです。
ここにきて一気に上昇してます。かなりの上昇具合です。
2011年の前回債務上限問題のときが、「70弱」だったので、現在はざっくりその2倍程度まで上昇しています。
市場は現在の債務上限問題のリスクをかなりの程度のものと認識しているようです。
2011年 オバマ政権時の債務上限問題
アメリカの債務上限問題は過去にもあると述べましたが、直近だと、2011年のオバマ政権時にありました。
当時もギリギリまで交渉が続き、市場に不安が走りました。その結果、格付会社の1つである「スタンダード&プアーズ」が、史上初となる米国債の格下げを行いました(AAAからAA+に格下げ)。
(米国債ショック)
面白いことに、米国債は格下げされたにも関わらず、利回りが下がりました(価格は上昇)。普通に考えると格下げされたら、利回りは上昇(価格は低下)すると思いますが、市場はそれとは逆の反応となりました。
これは米国債が通常の金融商品とは異なる性格があるためだと思われます。
米国債は覇権国であるアメリカの政府が発行する国の債券です。
ドルは世界中で貿易の決済代金や国の外貨準備として使用されており、まさに世界経済の血液です。基軸通貨というやつです。
米国債は数ある国債の中でも特に安全資産であると認識されているのです。そのため、市場に不安が走った際、安全資産として購入されたのでしょう。
2011年の米国債ショック時の主な資産の動き
2011年当時、米国債ショックが起きた際に、各資産がどのように動いたのか確認しておきます。
資産 | 価格 |
---|---|
短期債(米国債2年) 緑チャート | 上昇(利回り低下) |
長期債(米国債10年)青チャート | 上昇(利回り低下) |
株式(SP500) オレンジチャート | 下落 |
金(Gold)黄色チャート | 上昇 |
デジタル・ゴールドといわれるビットコインの値動きも知りたかったのですが、当時のチャートは残念ながら見当たりませんでした。
ただ、その性質は現物資産の金(ゴールド)に似ているから、当時と同じ動きをするのなら、ビットコインは価格が上昇する可能性がありますね。
債務上限問題の影響について
実際に時間切れとなり、資金繰りがショートした場合には以下のような影響があると想定されます。
- 政府活動の制限により、米経済ひいては世界経済に大きな影響
- 米国債の利払いが一時的に停止するなど市場にも大きな影響
アメリカは世界に大きな影響を与える国です。そのため、実際に資金繰りがショートしたら、その影響は大きいと言わざるをえないです。
ただ、正直、私はそんなに深刻には考えていません。債務上限問題はアメリカで定期的?に起ここっていますし、なんだかんだ上手くやってくれるだろうと考えています。
また、仮に資金繰りがショートした場合、短期的な市場への影響はそれなりにあるかもしれませんが、それが長期的に続くことまでは私は想定していません。
個人投資家としてどう対応するか?
個人投資家として、この債務上限問題とどう付き合うべきでしょうか。
パターン1(短期目線の場合)
短期目線で投資している場合には、もし市場が荒れた場合、それなりの影響が出ると想定されるので、リスク資産の比率を落とすなどの必要があるかもしれません。
パターン2(長期目線の場合)←ゆきだるまの考え方
長期目線での投資をしている場合、それほど敏感にならなくていいかなと考えています。前回同様の動きを想定するなら、リスクヘッジの意味で少額を、ゴールドやビットコイン(ビットコインは2011年当時は情報なし)、あるいは米国債に入れておくのはアリかなと思います。
私は長期投資がメインなので、今回の債務上限リスクがあるからといって、リスク資産を売却することはしません。前回同様の動きを想定して、ゴールド、米国債、ビットコインを少し仕込んでいます。
また、FRBの利上げ停止を見込んで米国債を分割投資している最中なので、仮に今回の債務上限問題で米国債が下がったら、買い増しを検討します。