2024年に日本が本格的にデフレから脱却できるかどうかは賃金動向とそれを支えるマクロ経済環境づくり次第
あけましておめでとうございます。2024年もよろしくお願いします。今回は2024年の日本経済がデフレから本格的に脱却するために何が必要なのか、現在の日本の経済状態を確認しながら、考えていきたいと思います。
現在の日本はデフレ脱却が完全にできていません。コスト・プッシュ・インフレが進み、それが収まり、またデフレ状態に戻るであろう状態です。経済の好循環を生み出すには、コスト・プッシュ・インフレではなく、デマンド・プル・インフレの発生が必要です。そのためには賃金が物価上昇を上回る必要があります。
力強い賃金上昇をもたらすためには、それを支えるためのマクロ経済環境づくりが大事です。具体的には、政府の財政出動、日銀の金融緩和が必要です。
これが私の今の日本経済に対する認識です。以下で詳細をみていきましょう。
今の日本は完全にデフレを脱却したとは言えない
経済状態を判断するには、様々な指標を総合的に見る必要があります。インフレにも2種類あり、コスト・プッシュ・インフレとデマンド・プル・インフレなのかによって見方が全然変わってきます。
今の日本経済を確認するためのデータを提示しながら、日本が未だに完全にデフレから脱却できていないことを示そうと思います。
GDPギャップはマイナス
経済は供給と需要で成立します。経済が好循環を始めるには、需要が牽引するデマンド・プル。インフレが発生することが大事です。
需要と供給のバランスをみるのが、「GDPギャップ」という指標です。
内閣府のデータによると、今の日本のGDPギャップはマイナスです。つまり、「供給>需要」であり、需要が不足している状態です。供給力のほうが強い状態なので、デフレ懸念が存在することになります。
また、長期推移をみても、日本はGDPギャップのマイナス状態にいるほうが多く、常に需要不足であったことがわかります。
※内閣府はGDPギャップの推計にあたって平均概念の潜在GDPというものを使用しており、本来の潜在GDPより少ないそれとなっている可能性があります。そのため、内閣府が出しているGDPギャップよりさらに多くのギャップが存在する可能性があります。
実質賃金 19ヶ月連続でマイナス推移
岸田総理も言及している賃金動向について。賃金動向については、実質賃金が19ヶ月連続でマイナス推移となっています。名目賃金の上昇率はプラスですが、それ以上にCPIが上昇しているため、実質賃金はマイナスになっています。
デマンド・プル・インフレを引き起こすには、実質賃金が上昇し、民間消費が活発になることが大事です。
こちらは日本の名目GDPの構成比率です。一番大きな割合を占めるのは、「民間最終消費支出」です。要は個人消費ですね。
日本のGDPが成長するには、半分以上を占める個人消費が安定的に増えることが大事です。個人消費が安定して増えていくには、その支出の元になる「賃金」が増えていくことが大事です。
日本のGDP構成比率を考えたときに、実質賃金が連続でマイナスの状況はかなりまずいです。
実質消費 8ヶ月連続でマイナス
これは総務省の家計調査における、消費支出の長期推移です。オレンジ色のグラフである実質消費は8ヶ月連続でマイナス推移です。2022年中盤から、名目も実質も消費が落ちていることがわかります。
先程示した実質賃金がマイナスになっており、それが影響しているものと思われます。賃金が上がらないと消費も上がっていかないということがわかりますね。
物価上昇は落ち着きを見せてきている
CPIは頭打ちか
こちらは日本のCPIの推移です。2022年は上昇一辺倒でしたが、2023年に入ってから頭打ちの様相を見せ始めています。長らくコスト・プッシュ・インフレが続いていましたが、コスト・プッシュ・インフレはデマンド・プル・インフレと違い長続きしにくいです。
CPI推移の内訳をみてみましょう。こちらは、総合CPIの上昇率に各項目がどれくらい寄与しているかを示したグラフです。
2022年の上昇に大きく寄与したのは、「食料」と「光熱水道」でした。2023年に入ってからも食料は依然として大きい寄与をしていますが、「水道光熱」は政府の補助、円高、資源価格の一服を受けてマイナス寄与となっています。
「食料」についても10月→11月にかけて、寄与度が低下しており、今後の反転ポイントになる可能性があります。
PPI(企業物価指数)は2023に入って低下
こちらはCPIの先行指標と言われているPPI(企業物価指数)です。日銀がデータを公表しています。国内企業物価指数は、2022年において10%と高い水準で推移していましたが、2023年に入ってから下落トレンドに変わりました。
2023年11月分の国内企業物価指数は+0.3%となっており、ほぼゼロです。PPIの低下を受けて、CPIも今後低下してくる可能性は大いにあります。
GDPデフレーターは上昇傾向
こちらは内閣府のGDPデータより作成したGDPデフレーターの寄与度分解です。GDPデフレーターはCPIと異なり、企業の設備投資や海外とのやりとりを含めた国全体の物価動向を示します。ホームメイドインフレの指標とされており、内閣府もデフレ脱却の一基準にしています。
GDPデフレーターは2023年に入ってから上昇してきています。直近では+5.3%の上昇率となっており近年まれにみる上昇率になっています。
しかし、中身をよくみてみると、2022年に上昇した輸入価格の反動低下でプラス寄与となっています。また、輸出もいつマイナス反転するかわからない状況です。それから、一番大事な国内需要デフレーターが今後も安定的に推移してくれるかどうかわかりません。
先程提示した実質賃金の動向や、消費支出の動向などをみていると、国内需要デフレーターが安定的に推移するのは難しいのではないか、と私は考えています。
GDPデフレーターが安定的にプラス推移するには、海外要因に頼らない国内需要デフレーター(グラフ灰色部分)が安定的にプラス推移することが大事です。
参考までにGDP構成項目ごとのGDPデフレーター寄与度分解のグラフを掲載しておきます。やはり、民間最終消費支出と民間企業設備が大きな割合を占めているので、この2つが安定的に推移することがGDPデフレーター安定上昇の肝になってきます。
不穏な中国のCPI動向 デフレ色濃厚
こちらは中国の政府公式サイトである中国国家統計局のデータから作成した中国のCPI推移です。不動産バブルの崩壊を受けて、CPIがマイナスに突入しました。完全にデフレとは言わないものの、今後の政府の経済対策次第では、日本の失われた30年のようになる可能性があります。
日本の輸入相手国No.1は中国です。2021年データになりますが、日本の輸入全体の約24%を中国が占めています。中国の物価が安くなれば、日本の物価もそれにつられて安くなる可能性があります。輸入ウエイトの大きい中国のデフレは日本の物価動向にもそれなりの影響を与えるものと思われます。
令和6年能登半島沖地震によるデフレ懸念
まずは、今回の震災にて被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。また、早期の復旧を願います。
2024年1月1日に能登半島で大きな地震がありました。能登半島が壊滅的なダメージを受けました。2024/01/05現在でも懸命な救出活動が行われています。一人でも多くの方が救助されることを願います。
2011年に発生した東日本大震災による経済的な影響はかなり大きかったです。内閣府の試算によると、16~25兆円の被害額があるとされました。これは当時の実質GDPを0.2~0.5%程度押し下げる効果があると推定されました。
2024年1月1日に発生した能登半島沖地震でどれくらいの経済的損失が発生するかわかりませんが、間違いなく言えるのは、経済的に悪影響を及ぼすということです。マクロ経済全体にデフレ圧力がかかるでしょう。
震災による経済的被害は甚大なものが多いですから、政府の経済対策がとても重要になります。東日本大震災のときは、民主党政権による震災復興のための増税が行われるという大失態がありました。
今回はそのようなことにならないよう願うばかりです。震災によるダメージを経済が負った場合、現役世代に負担が集中しないよう国債発行により財源を確保するのが大事です。
政府による財政出動、日銀の金融緩和継続が大事
今まで様々な経済指標を見てきましたが、日本はデフレを完全に脱却できておらず、内需が安定しない状況です。
政府による財政出動(国債発行を前提とする減税や財政出動)、日銀による金融緩和継続が大事になってきます。
しかし、政府の経済対策をみていると、定額減税を始めとして微妙なものが多く規模も不足している印象が否めません。また、日銀総裁が2023年4月に黒田総裁から植田総裁に変わり、金融引き締め的な政策がなされるようになってきました。
個人的には今の日本経済の状況、今後の財政、金融政策を考えると、日本は2024年に本当にデフレ脱却ができるのかどうか大いに疑念がわくところです。
残念なことですが、私は今の政府や日銀に期待はしておらず、個人でできることを最大限やっていこうと考えています。