30年間で日本の指標はどのように変化したか?
「失われた日本の20~30年」という言葉をよく耳にします。
日本は長い間経済成長ができておらず、賃金が上がっていません。直近ではコストプッシュインフレに苦しんでいます。経済成長は実感できず、株価だけが上がっている状態。この30年間で各種指標にどういう変化があったのか。数値で確認してみようと思います。
30年間の日本の各種指標の変化
今回は6種類のデータを参考までに紹介します。名目GDP、民間給与金額、物価、国民負担率、退職金の金額、ゆうちょ銀行の貯金金利の6つです。
- 名目GDPは「ほんの少しだけ」増えたが、他の国と比べると、泣きたくなるくらいの経済成長率
- 給料は名目値、実質値ともに減少
- 給料は上がらない中、物価は上昇
- 給料の実質値及び名目値が減る中、そこから召しあげられる税金と社会保険料の負担は上がった(国民負担率の上昇)
- 退職金はこの30年間で約900万円ほど減少した
- 貯金金利は1800分の1に低下
- 株価は最近調子がよく、30年間で+82%ほど(経済成長の実感はない)
名目GDPの推移
1992年→2022年の30年間で、日本の名目GDPは、「489兆円→561兆円」へと変化しました。72兆円増加しました。増減率に換算すると、14.7%です。
これが多いのか少ないのか、日本だけのデータを見ていてもわかりませんね。こういうときは、各国で比較すると違いが一目瞭然になります。
これは世界通貨基金(IMF)のデータからゆきだるまが作成したグラフです。2000年を100としたときの名目GDPがどのように推移しているかを各国で比較したものです。
赤い太線が私達日本のデータです。もう何も説明いらないですよね。悲しくなるほど成長してないのです。
日本のターニングポイントは1990年代後半です。1990年代後半からデフレに突入してから、全てがおかしくなりました。
民間給与金額の推移
1992年→2021年の29年間で、日本の民間平均給与額は、「455万円→443万円」へと変化しました。▲12万円になりました。増減率に換算すると▲2.6%です。
これも悲しすぎますね。約30年間で給料は増えたところか、マイナスという残念な結果です。
特にリーマン・ショックの影響を受けた2009年からアベノミクスが開始されるまでの2012年まではひどすぎますね。
給料が上がらない、むしろ下がっていく状態で、どうやって将来に明るい希望を持てば良いんだよ!という若者の声がこのグラフから聞こえます。私もその若者の一人です。少子化対策で色々な原因が言われていますが、個人的にはこの給料の推移がそれを如実に表現していると思います。
政府は小手先の少子化対策を小出しにしてきていますが、少子化対策するなら、1番はこの給料をなんとかすることに限ると思います。ただ、現実の政府の対策は迷走してます。最近の少子化対策の財源論争を見ていても、いまいち何がしたいのかわかりません(少子化対策のための財源は何が正解なのか?)。
最近は若干の回復傾向にありますが、この値は名目値なので、物価の変動度合いを考慮する必要があります(後述のインフレ率の項目も参照)。厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査」には賃金の実質値も公表されています。
実質値は青い線です。「1992年→2022年」の30年間で、「113.5→99.6」と変化しました。▲13.9ポイントの変化です。変化率に換算すると▲12.2%です。名目賃金が上がらない中での物価上昇というかなり悲惨な状況です。
物価の推移
1992年→2022年の30年間で、日本の消費者物価指数(総合指数)は、「94.1→102.3」へと変化しました。8.2ポイントの上昇。変動率に換算すると、8.7%です。
CPIを始めとするインフレ指標の見方はこちらの私のブログ記事を参考にしてください。(日本のインフレ度合いを見るための6つの指標とその見方)
また、直近の日本のインフレ率の動向についての記事はこちらのブログ記事を参考にしてください(消費者物価指数(CPI) 全国 2023年(令和5年)4月分が総務省より発表されました)。
30年間で少しずつですが、インフレ率は高まりました。インフレ率が上がることそれ自体は悪ではありません。インフレの原因が何であるのか。インフレ率の上昇スピード等、総合的に考慮されるものです。
しかし、日本の場合は、30年間で給料は名目値ですでにマイナスとなっています。そして、30年間でインフレ率は8.7%上昇しています。
ということは、実質的にはそれなりのマイナスになっているということです。名目値でも給料は増えなかったし、物価の変動をあわせて考えるとさらに悲惨な状態ということに…。いわばダブルパンチの状態ですね。日本国民の貧困化が進んでいます。
直近では、コストプッシュインフレによる歴史的なインフレに直面しているので、さらにその傾向が顕著になっています。
国民負担率の推移
「1992年→2022年(実績見込値)」の30年間で、国民負担率は、「36.3%→47.5%」へ変化しました。11.2ポイント上昇しました。
国民負担率は、租税負担(国税と地方税)と社会保障負担で構成されていますが、両者の内訳の動きを見てみると、以下のようになっています。
1992年(%) | 2022年(%) | どれくらい変化したか (ポイント)<何倍か> | |
---|---|---|---|
租税負担率(①) | 25.1 | 28.6 | +3.5<1.13倍> |
社会保障負担率(②) | 11.2 | 18.8 | +7.6<1.67倍> |
国民負担率(①+②) | 36.3 | 47.5(47.4?) | +11.2(+11.1?)<1.30倍> |
2022年の財務省の国民負担率が内訳と0.1一致しませんが、細かいのでスルーします。
まず、国民負担率の47.5%という数字は(2022年)、歴史的に見てもかなりの高水準に位置しています。内訳をみると、租税負担率も上がっていて、とりわけ社会保障負担率の上がり方がすごいですね。税金も凄いですが、社会保険料負担もこの30年間でかなり上がっています(1.6倍くらい)。
賃金は名目値が減少傾向、その間物価は上昇しているため、実質値も減少傾向。さらに、名目・実質の賃金が減った上に、そこから召しあげられる税金と社会保険料は増えている状況。泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。失われた20~30年と言われるのも納得がいきます。日本全体がどんどん貧困化しているのがわかります。
退職金の推移
退職金は、「1997年→2018年」の約20年で、「2871万円→1983万円」へと変化しました。▲888万円です。増減率に換算すると、▲30.9%です。
- 退職金データの出典について
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(※1997年のデータは厚生労働省の「賃金労働時間制度等総合調査(平成9年)」における「勤続20年以上かつ45歳以上の男性定年退職者(大学卒)の一人あたりの平均支給額」、2018年のデータは同省の「就労条件総合調査(平成30年)」における「勤続20年以上かつ45歳以上の男性定年退職者(大学・大学院卒)の一人あたりの平均支給額」)
退職金の減少は顕著ですね。経済成長できなくて、企業の経営状態も芳しく無く、退職金をたくさん払えなくなってきたということでしょうか。
周りでも「昔に比べると退職金がどんどん減っている」という言葉をよく耳にしますが、20年で約900万円も減少しているとは。驚きです。自分で老後の資産を確保する必要性が俄然出てきます。
ゆうちょ銀行の貯金金利の推移
1992年→2022年の30年間で、日本の貯金金利は、「1.8%→0.001%」へと変化しました。1800分の1になりました。
まぁ、金利の低下は、今までの指標を見ていれば当然といえば当然の流れです。経済成長しなくなれば、お金の需要が下がりますから、金利は低下傾向になります。
また、経済成長を促すための金融緩和も、金利の低下圧力となります。
0.001って小数点以下に何個0がつくんだ!という感じですが、1億円貯金すると1000円利子が1年後にもらえるという話です。
日経平均株価の推移(番外編)
番外編ですが、日経平均株価の推移です。最近物凄く調子が良いですね。私は全世界株に投資しているので、その恩恵をあまり感じられないのが残念ですが。
ざっくりですが、1992年→2023年の約30年間で、日経平均株価は、「17,000円→31,000円」と変化しました。14000円ほど上昇しました。変化率に換算すると、+82%ほどです。
他の主要な指標と比べると(特に米国)、地を這うような動きになってしまいます。
ちなみに、30年ちょい前は(平成元年とか)世界の時価総額ランキングでも日本の企業がTOPをかなりの数占めていました。残念ながら今のランキングの上位に入っているのは、ほとんど米国企業です(マーケットキャップ(グーグルファイナンス))。
まとめ
この30年間のまとめを再掲しておきます。
- 名目GDPは「ほんの少しだけ」増えたが、他の国と比べると、泣きたくなるくらいの経済成長率
- 給料は名目値、実質値ともに減少
- 給料は上がらない中、物価は上昇
- 給料の実質値及び名目値が減る中、そこから召しあげられる税金と社会保険料の負担は上がった(国民負担率の上昇)
- 退職金はこの30年間で約900万円ほど減少した
- 貯金金利は1800分の1に低下
- 株価は最近調子がよく、30年間で+82%ほど(経済成長の実感はない)
株価は上がらないより上がったほうがましですが、個人的には日本の経済成長を実感できておりません。賃金は目に見えて上がっていないですし、コストプッシュインフレで悪性のインフレに苦しんでいます。また、防衛増税と少子化対策のための社会保険負担増で国民負担率はさらに上昇するでしょう。可処分所得は減少していく一方です。
日本国民全体は貧しくなる一方で、株や不動産などの資産を持てる人たちの資産はどんどん拡大しています。格差は広がる一方だと思います。
政府に文句を言っても仕方がないので(その政府を選んだのも日本国民ですから)、やはり自分の身は自分で守るしかありません。自分の身を守ってくれるのは、繰り返しになりますが、資本主義の中心である「お金」とどうやって付き合っていくのかという「マネーリテラシー」になってくると思います。